事恢
例復

Anne side - 01

形似人形。

乱れた制服を整え、いつもの教室に戻る。
ボタンの視線が一瞬私の顔に停まり、そしてそのままわざとらしく通り過ぎる。
タイピング音だけが鳴り響く気まずい沈黙。
遅れてカサネが入ってくる。別に用事があったわけではない。
ただ、私と同じタイミングだと変に思われるから、なんてしょうもない理由だ。
無論、その程度で誤魔化せるものではなかった。
ボタンの咎める視線を白々しく受け流し、カサネが隣に腰掛ける。
「それで」ボタンの呆れたような、諦めたような声。「資料は見つかったのかしら?」
「え、資料?」
想定に無い発言に戸惑う。
耳打ち。「あんたはうちと資料を探してたんだよ」
今更そんな言い訳を立てるしょうもなさと、事前に伝えておくべきだろうというおかしさから失笑してしまい、
ボタンの無言の抗議がこちらに向いた。
「ボタンだって・・・」「そうだけど、嘘つくのはどうなのよ」
空気がひりつく。「私を挟んで両側から火花を散らされると、困る」
音を上げる。
「兎に角、二人でこそこそやるなら、こそこそやるって言って欲しいわね」
「それじゃこそこそになんないだろ」
「分かった。じゃあ当番制にしましょうよ。明日は私がアリスとこそこそする日ね」
たまったものではない。私は彼女らの愛玩人形ではない。
「それで」咳払い。「今の現世の状況」無理やりな話題転換。
「そうね」展開される虚像、ボタンの指差し解説。「7-Cブロックの平均値が前日比-0.8、危険水準ね」
「じゃあ・・・」
「アンヌ、頼めるか」「アリス、頼めるわね」
両側から頼まれる。
「・・・どうせ、私にできるのはその程度だし」
いつもどおりだった。

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